その時僕らの歴史が動いた!~Pivot in the History~ Part 1

難産なので冒頭部だけ上げてみる。
ラブコメ今昔とマクロスが好きです。


こんなに大事なときなのに、私の頭に浮かんだのは「あーちゃんかっこいいな」だった。

世界がきな臭くなって随分たつけれど、わたしはあんまり変わっていないんじゃないかって思う。

あんまり変わっていないせいでこんなに間抜けな言葉しか思いつかないのかな。
金色に光るボタンとモールのついた純白の制服は何度見たってかっこいい。あーちゃんが着てたらなおさらだ。
いっそいつかのファッションショーの続きだったら良かったのに。

軍服みたいな服はいつかの仕事で着たことあったけど、あーちゃんの着ている制服はどこか違った雰囲気を感じる。
いつもよりきりっとした顔かな、それともこの間新聞で見た前線の写真のせいかな。
なんだかあーちゃんがすごく遠くにいるようで、あーちゃんなのにしらないあーちゃんで。

本当にしばらく会えなくなる、ってことに気づいてしまった。

「あーちゃん……ほんとに行っちゃうの?」

もう決まっているってわかってるのに聞いてしまう。だいぶ前から知っているはずなのに。
そうじゃないだろ自分、って頭のなかで突っ込む始末。

「……危険なのはわかってるんです。」

あーちゃんは私の問いかけに答えずにそう言った。
時折テレビでやってるのを見ていたら、とても安全そうには思えない。亡くなった人だって一人や二人の話じゃないのに。

「それならっ…」
あーちゃんがそうなってしまうんじゃないかって考えた途端、止める間もなく出てしまった言葉をどうにか引っ込めた。

「それでも、です。」

ちょっと困ったように笑いながら言うあーちゃん。なんで、どうしてって積み上がる問いかけ。必死に抑え込む。

「…私にできるって言われたから、私がみんなを守りたいって思ったから。ううん、違う。私が未央ちゃんと未央ちゃんのお友達みんなを守りたいって思ったから。」

多分泣きそうになってる私の顔を見つめながらあーちゃんは続ける。

「怖くないって言ったら嘘になります。でもきっと大丈夫です。プロデューサーさんも安全には最大限の努力をするって言ってくれましたし。軍の方も任せろっていってくれました。」

それじゃダメなんだ、とも言えず、じゃあ安心だね、って笑うこともできない私はうつむくしかなかった。

「なにより私が行くことで今苦しんでいる人が楽になるのなら、未央ちゃんや346プロのみんな、私の大好きなこの街を守れるなら、それは多分私がやるべきことなんです。」
「それでも…もし…あーちゃんが怪我なんかしたら…万が一…」

その先なんか言えなかった。あーちゃんがいなくなるなんて。
不意に感じる感触。ふわっと香るあーちゃんのにおい。

「大丈夫です。未央ちゃん。私は絶対に帰ってきます。なにより未央ちゃんと会えなくなるのなんて私も嫌です。」
「でもっ…なんであーちゃんなの…!なんでうちのプロダクションなの!」

溢れてしまった涙があーちゃんの白い制服を汚してしまった。
駄々っ子みたいだな、わたし。

「未央ちゃんには頑張って、って笑って送り出してほしいな。」

いつも見ているキラキラした笑顔でそう言われたら、どうしようもなくなってしまう。

「…ぜったいかえってくるよね?」
「もちろんです!」
「やくそくだよ?」
「ええ」

離れるあーちゃんの温もり。
わたしのパーカーのジッパーに引っかかったあーちゃんの飾緒が、ためらいがちに離れる。

先っぽの飾りがボタンにあたって、かちんって鳴った。

「頑張ってね、あーちゃん」
笑って送り出さなきゃって必死に笑顔を作ろうとしたけれど、きっと変な顔なんだろうなあ。
でもなんとか言えた。ちょっと涙声なのは気にしないことにする。

「はいっ!」
「絶対帰って来てね!」
「はいっ!」
「怪我しないでね!」
「ええ!」
「ちゃんとご飯食べてね!」

「未央ちゃんお母さんみたいです」

そう言いながら笑うあーちゃんは本当にいつものあーちゃんなのに。ゆるふわ乙女でお散歩好きのわたしの大好きな女の子なのに。
どうして、って言葉を飲み込む。

時間が迫っている事なんかわかっている。プロデューサーと軍の人が待ってるのだって見える。
式典の直前だしきっとスケジュールを気にしているに違いない。

それでも。
「あーちゃん、これ」

そう言いながら首のリボンを解く。

「…もっててほしいんだ。あーちゃんに。」
「……帰ってきたら絶対に返しますから。待ってて。」
「うん」

受け取った一瞬、くしゃってなったあーちゃんの顔を見たと思ったら

「絶対帰ってきますから、待っててください」

って囁くあーちゃん。
唇に感じるぴとって音とやらかい感触。

すぐ近くに見えるあーちゃんのまつげ。
ぱらって目にかかる前髪。

ぽとって落ちる制帽。つばのたてる硬い音。

いい匂いだな、って思うぐらいに混乱していたのかもしれない。
びっくりしようと思ったらあーちゃんはもうさっきのところに立っていて。

「あ、あ、あの、あーちゃん……?」
ろれつが回らないなんて本当にあるんだね。
唇がなんだか熱いせいなのかも。

「未央ちゃん、頑張ってきますね」

キリッとした顔で、制帽をかぶり直して、びしっと敬礼をするあーちゃん。
またかっこいいなあって思ってしまうわたし。でも知ってるあーちゃんだ。

だって、ちょっとだけ赤いほっぺたは、わたしが知ってるかわいいあーちゃんだもん。

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